出会いセンター       






譲るつもりは一歩もねーんだ。






たった一言の呪文







教室。

放課後にもなると、うちのクラスは誰もいなくなる。

要するに、帰宅するのが速いのだ。

そんな場所で。










「梅雨って好きか?」

こんな、どうでもいいような言葉にもしっかり反応してしまう自分は、

相当な馬鹿なのだろう。

「なぁ、おい。ちょっと聞いてんのか!・・・沢田?」

ああ、聞いてるさ。

梅雨が好きかって?

「どっちでも」

「何だと!?」

アタシはな、結構好きだぞ。

彼女は、俺の内心などお構いなしに単語を連ねる。

「紫陽花とか好きなんだよな。晴れてるときにみるのもいいんだが、

雨のときに雫のこぼれるあの花。くぅっ、たまんねーよな!」

この、オヤジのような発言は、どうにかならないものなのだろうか、

と俺はぼんやりと考える。

惚れた弱みかどうかは知らないが、ヤンクミは、可愛いと一般に

呼ばれる部類に入るのではないかと思う。

ただ、日ごろの格好と、あの口調でごまかされているだけなのだろう。





しかし、年頃の男に向かって、それも本人はこれっぽっちも気づいて

いないが恋焦がれる本人にそんなに好きだ好きだと言われたら、

冷静でなんかいられない。

これでも、ばれないように必死にポーカーフェイスを保っているのだ。

それなのに・・・。


「大丈夫か、沢田?お前風邪でもあんのか?」

あろうことか、顔を近づけてきたのだ。

「熱でもあったら大変だろう!?」

額同士をくっつけて熱を測るのなんて、親子でするくらいだろう!?

俺はそんなにお前の範疇外かよ。

しだいに腹が立ってきた。

どうして、俺がここまで我慢してやらなくてはならないのか。

少しくらい、意識してくれてもいいではないか。




「ほら、顔近づけろ」

そう言うヤンクミにおとなしく顔を近づける。

ピタリ、と暖かな体温が額に触れ、

「ん、熱はないようだな」

そう言って離そうとした女、俺は顔をずらして耳元に囁いた。

「やっぱり好きだ」









顔を離して相手の顔を見れば、呆けたまま固まっている。

「おい、ヤンクミ?」

俺はわざと顔を近づけてみた。

そのとたん。

「お、おおお。おい!!」

今のはなんだ!?

と、距離をとり、顔を真っ赤にさせて叫んだ。

「何って・・・」

梅雨がスキかどうかだけど?


「・・・へ?」

「嘘」

「はぁ!?」

「じゃあな」



まだ後ろで叫んでいる教師の声を一切無視して、背を向けて歩き出した。

あんなに顔を真っ赤にさせて、思わず距離をとるということは、少しは脈アリか、

などと考えながら。




まあ、卒業まではまだ時間があるし。

執行猶予でもつけてやろうか。










少しだけ顔がほころんでいる事を自覚しながら、沢田は帰路についたのだった。 















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