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誰もいない放課後。そんな卒業が近くなったある日のお話。






名簿を教室に忘れてしまった久美子はそれを取りに教室へと急いでいた。明日

でもいいかと思っていたのだが、教頭にくどくどと説教されそうになったた

め、急いで職員室を飛び出してきたのである。






やっと教室に着き、入ろうとすると綺麗な音が聞こえてきた。






「お、なんだ。沢田じゃないか。何やってんだ?」

「別に、何も。」

「おまえ、ホントに暇してんなぁ・・・。」

「うるせーよ。」

「宿題ちゃんとやっとけよ!」

「俺が出し忘れた日、あったかよ。」

「う、いや。それはないが・・・。」

「じゃあ、それはいらない話だな。で、忘れ物?」

「あ?ああ。名簿をな。教頭が五月蝿くって。」

そう笑う久美子の笑顔がまぶしくて、すこし、ほんの少しだけ彼女から目をそ

らした。これは逆光のせいだだ、そう思いながら・・・。







「そういえば、お前。さっき口笛吹いてただろう。」

「それが?」

「女はな、男の前で口笛をふいちゃいけないんだぞ!」

そう偉そうに言う担任。ふと、理由を聞きたくなった。

「なんで?」

その台詞に赤い口を三日月の形にして笑いながら答える久美子。自分を生徒と

しか見ていないからこそ出来るその表情。

「それはな、口笛をふく口の形がキスを誘ってるように見えるからなんだ

ぞ!」

「誰に聞いたんだよ、そんな話・・・。」

「ん?おじいちゃんからだよ。決まってんだろ!?」






慎は、ピューッと口笛を吹いた。

「なあ、男が吹くと女を誘ってるってことはあんの?」

「さあな?そこんとこは私にもわからん。聞いてないしな。なんだ?気になる

子でもいるのか?そうかそうか。とうとう沢田にもそんな子ができたのか。よ

し、まかせとけ!今日おじいちゃんに聞いてきてやるよ!」

「・・・。おまえは、口笛吹かないのかよ。愛しの篠原さんに。」

「なっ!!そ、そんな、ふ、吹けないだろ〜っ!!?は、恥ずかしいだ

ろ・・・。」

「あ、もしかして吹けないんだろ?」

「失敬な!!私の美しい口笛さばきを知らないな!?」

話がだんだんとそれて、目の前にいる男子生徒の思うままになっていることに

など、微塵も気づかない、新任のニブイ女。


「くっそー、沢田の奴。馬鹿にしやがって!!このやろー。みてろよ!?」

そう言って、その女は口笛を吹いた。とても綺麗とはお世辞にもいえない、か

すれた小さな音。でも、男に向かって吹いたその笛。彼女の音色。いまはそう

でもいつか誰かの為に綺麗な音になっていくのだろう。その相手がどうか、自

分であるように。そんなことを思いながら。










誘いにのった。










「っっっ!おい!沢田!!何すんだ!?!?!?」

「あ?つい誘われちまったんだよ。女の口笛に、な。」

「!!!!!!!!」

「じゃあな。また明日。」








ごまかせるのもここまで。今度はお前がおれの口笛に誘われるように 。












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