「ねえ、瀬田君。」 「はい!何でしょうか?お母様!」 「お母様じゃないって言ってるでしょう?もう・・・。あのね、そこにいるな ら頼みたい事があるんだけど。」 「はい!なんなりと!そのかわり、次の村議会選挙で僕の応援演説 を・・・、」 「やるの?やらないの?今日は、書道の展覧会に行かなくちゃいけなくて、時 間がないのよ。」 「・・・、喜んで、お母様。」 「そう?ありがとう。じゃあコレをね、・・・。」 その日、自称天才マジシャンである山田奈緒子は空腹にたえかね近くのスーパ ーへとやって来ていた。目的はもちろん"試食"である。 「一昨日バイト首になったからなぁ・・・。これ先月もやったから、あんまり やりたくないんだけど・・・。上田も、今日まで出張だっていうし!あ〜あ、 ついてねー。」 そうつぶやきながらも、目的の場所へたどり着き周りに聞こえているであろう 我が腹の虫を抑えようとしたその時、昔から全く変わらないあの声が聞こえて きた。 「瀬田一彦をよろしくお願い致します。御静聴ありがとうございます。あ、そ この綺麗なお姉さん待って下さい。今、僕の村に求められているのは我々若人 の力なのです。村会議員にはぜひ、この瀬田一彦、瀬田一彦をよろしくお願い 致します!」 彼は相変らず選挙の制度が分かっていないようである。 聞き間違い!?あまりの空腹による幻・・・?そうであることを心から願いつ つ、恐る恐るそちらの方を振り向いた。すると、見間違いようのないあの青年 が果物売り場でバナナをマイク代わりに演説をしているではないか!かかわら ない方がいい、今までの経験からそう直感し、そーっと表に出ようとしたのだ が、そう上手く行くはずもなく、前をよく見ていなかったため特売品のカート につまづき、結局は彼と知り合いであると近所中に知れ渡ることになるのだっ た・・・。 「何しに来たの!?」 「やだなぁ、奈緒子ったら照れちゃって。」 「全然照れてないから。で、用件は?今日は、お母さんが来るんだから早く家 に帰らないと。」 「あ、そのことなんだけど、お母様が急に来れなくなったから変わりに僕が来 たんだ。はい、コレ。」 そう言って渡したのは小さな箱。 「ありがとう!これ、次のマジックで使う予定なんだ。無くて困ってて、お母 さんに連絡したらあるっていうから頼んどいたの。わざわざごめんね、一 彦。」 「いやいや、僕は奈緒子の為なら例え急患が来たって君のもとへ飛んでいくと も!」 「あー、はいはい。」 そんな会話をしていたその時!ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜、という威勢のいい音 が聞こえた。 「ほっとしたらお腹すいたーーーっ!」 「じゃあ、何か食べる?せっかく久しぶりに会ったんだし。」 いつもなら断る奈緒子だが、今回は話が違う。自分の生命がかかっているので ある。背に腹は変えられない。というわけでおごりという条件付きで承諾し た。 いつもなら、ここで終わるはずだった。が、間の悪い事に一部始終を見ていた 者がいたのだ。さらに会話がちらほらしか聞こえなかったので独断と偏見によ って言葉を補われる事となる。その正体は、池田ハルとジャーミー君であっ た。この二人でなければ、大惨事はまぬがれただろうに・・・。つくづく運の 悪い奈緒子である。 この日、上田次郎は出張を終え、奈緒子の家へと向かっていた。本当なら明日 来ればいいのだが、毎度のこと『どんとこい!超常現象』を読み、解決しても らおうとする人が現れたのだ。もちろん、上田が断るはずも無く。しかし、自 分だけでは不安なので、家賃滞納分を支払ってらる代わりに一緒に来い、とい う毎度おなじみの台詞で丸め込もうとしていたのであった。だが、彼女が出か けていたため、勝手に部屋で待つことにした。 「遅い・・・。何分待たせる気だ。俺様は忙しいんだぞ!」 あまりの遅さ(といっても10分程度)に文句をつぶやいた時、ドアを叩く音 が聞こえた。 「や〜ま〜だ〜?おい!山田!!家賃、今日こそ払ってもらうよ!!3ヶ月も 滞納して!ジャーミー君なんか、半年分も前払いしてるんだよ!?どうせ私が フロに入っている間に戻ってるんだろ!?開けろ!山田〜っ!!」 そう怒鳴るハルさんの後ろで、ジャーミー君は貧乳ソングを歌っている。 「♪貧乳だ〜、私は貧乳〜、胸がないのよ昔はペチャパイ〜、未来のあなた〜 待っててください〜〜〜♪♪♪」 「はいはい、ちょっと待ってて下さいね〜。」 そう言いながら何の違和感もなくドアを開ける上田。それに驚く事も無い二 人。 「あら、上田さん来てたの。山田知らない?また家賃滞納してるのよ。」 「いえ、私も先程来たばかりで分からないんですよ。あ、払っときますよ。は い。」 「あら、いつもすみませんねぇ。確かに頂戴しました。じゃあまだ帰ってきて ないのかしら。山田ったら彼が出来たと思ったら・・・。」 「・・・は?今何と仰いました??あの貧乳娘に彼氏!?そんなの見間違いで すよ。あの女に限って絶対にないですって。」 「あれ?知らなかったの?上田さん。今日なんか、結構指輪まで貰ってたの よ?嬉しそうにしちゃって山田のやつ。貴方がいるのにねぇ。二股ってやつか しら。顔は、まあまあだったわよ。」 「ずぇーっったいにありえないですよ!嘘だ・・・。アイツに彼氏なんてでき るはずがない。何故、こんないい男が傍にいるのに・・・!」 「あら、ジェラシー?」 「違います!!そんなんじゃありません!!絶対にありえません!よし、ジャ ーミー、後で新・貧乳ソングを教えてやろう。」 「ゼヒ、オネガイシマス。ボイン♪」 そんな、だんだん話がそれてきた時、下から今回の話題の中心となっていた女 の声が聞こえてきた。しかも、男の声付きである。 「あー、美味かった!」 「食べすぎだよ、奈緒子。ご飯食べてるの?医者として忠告するけど、ちゃん と食べないと駄目だよ。」 彼氏は医者なのか!!!と、一人心で突っ込む上田。と、信じられない単語が 彼の耳に飛び込む。 「可愛いんだから。」 可愛い〜〜?その言葉に我慢できなくなり、とうとうその場面に飛び出てしま った。 「う、上田さん・・・?」 「オイ、君。間違ってるぞ?コレの何処が可愛いんだ。しかも、貧乳だぞ?性 格悪いし、態度も悪いし、何処がいいんだ!?眼科に行って来い!!」 「・・・、奈緒子、この人は?」 何やってんだ上田!小さく囁き思いっきり足を踏んだ後、奈緒子はにこやかに 彼等の紹介を始めた。 「一彦、この人は日本科学技術大学の教授の上田次郎さん。上田、この人は、 私の幼馴染の瀬田一彦だ。」 「そうなんですか、教授なんですか?それは、凄いですね!何をしてらっしゃ るんですか?あ、僕今度選挙に出るので、是非一票お願いします。」 「知らないのか!?この私を!?!?あんなにテレビにも出て、本まで出して いるのに・・・?」 あまりのショックに自分の世界へ篭ってしまった彼をよそに、今度はハルが話 し出した。 「でも、山田。昼間にこの人から結婚指輪貰ってたでねーか?」 「違いますよ!!!小さな箱でしょう?あれ、マジックの小道具ですよ。今日 は母が来れなくなってしまったので、代わりに来てもらったんです。」 「ちょっとくらい考えようよ、奈緒子ぉ〜!」 「だって違うでしょ。」 「ククク、そうかそうか、やっぱりな!おまえに彼氏なんてありえないとは分 かっていたが、やはりそういう事だったのか!!フハ、フハハハハハッ!」 いつのまに復活したのか、上田が立ち上がった。 「何言ってるんですか、上田さん。それより、何でおまえがここにいる?」 「感謝しろよ、山田。上田さんがおまえの滞納してた家賃、払ってくれたん だ。」 「はぁ?誰も頼んでんないじゃないですか。あ、また何か厄介な事を私に押し 付けようとしてるな?いきませんよ、私は。」 「俺が未納分を払ったんだ。来てもらうぞ!それとも、今すぐ自分で払う か?」 「う・・・。それは!!あと3日待ってくれれば・・・。」 「駄目だ、期限は今日だ。」 「そんなぁ!!」 「さあ、面白い話だ。絶対に行きたくなるぞ!さあ、私におまえの家の安いお 茶をさっさといれろ!」 「また勝手に入りましたね?いいかげんにしろ!!」 「いいのかな?今回は北海道土産がついてくるんだが?」 「さあ、上田さん、急いで行きましょう!じゃあね、一彦。またね。今日は本 当にありがと!おやすみ☆」 そうして、一人を除いて、池田壮へと戻っていく。 「ねぇ、もう終電ないんだけど。俺、一体どうすればいいのかな・・・。」![]()
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