出会いセンター       













私は、しばらくその場所を動けんかった。

祖父の言葉を思い出していたのだ。

だから、思い描いていた人物に肩を掴まれてとても驚いた。







「・・・江!奏江!!」

「わ・・・!社先輩!?何やのん?びっくりするやん!」

「びっくりなのは、俺のほうだよ!何度電話しても通じないし、おじいさんが

亡くなったのも今日聞いて・・・!奏江のこと、心配で・・・。俺、心配で・

・・」












"大切な人の手は、絶対に話してはいけないよ"













繰り返される、祖父の言葉。

その時、玄関の呼び鈴が聞こえた。

「はい、どちら様ですか?」

「夜分おそれいります。敦賀さんには生前うちの園に多大な寄付をいただきま

してな」

そして差し出された名刺には、ひかり園と記してあった。

「あの、・・・何かの間違いじゃないですか?」

「間違いやおまへん。何十年も敦賀さんはうちの園に寄付してくれはったんで

す。何百人という子供たちが十分な教育を受けさせてもろたんです」

そして、ある花を差し出した。

「この花、敦賀さんが好きやったんです。ご仏前にお供え下さい」

はなかんざしだった。











正直、うそや思った。

うちのおじいちゃんやで?

金の亡者って呼ばれとったのに。

でも、その話はウソでも冗談でもじゃなかったんや。

次の日も、また次の日も、おじいちゃんの仏前は花かんざしでうまったんやから。



日記には、瑠璃子おばあちゃんが出入りの職人さんと恋仲になったことにもふ

れられていた。

確かめようもないけど、うちにはおじいちゃんの血、流れてへん気がするわ・・・。












「俺さ、焦らないことにしたんだ」

先輩は言った。

「周りが経験してるからって見栄はったんだ。自分達のペースでいいんだよな。

あせらへんぞ。奏江がいいっていうまでちゃんと待つから」

「なぁ、先輩」

「ん?」

そういって振り向いた彼に、私はキスをした。

「言っておきますけど、ここまでですからね。調子に乗らないで下さいね!」

でも、先輩の幸せそうな顔を見ていたら、もう少しだけいいかな、なんて思っ

てしまった。

そんなことは、口には出さないけれど。

「いい天気ですね。空が綺麗。緑が綺麗。綺麗やね、先輩」















花簪を君に::十弐


















「京子ー!京子ちゃん!早う学校行き、遅刻するえ!!」

「ママ!今朝もはなかんざし元気やよ!うれしいな、うれしいな!」

「ハイハイ、分かったから早く行きなさい!今日はノート買うんやろ?」

「うん!いってきます!」

手を振り元気に出て行った娘を見送り台所に戻ると、主人が起きてきたところ

だった。

「あれ?京子はもう行ったんか?」

「倖一、また工房で寝たん?」

「そりゃ、入り婿として敦賀の名は汚せないからな。きばらんと家を追い出さ

れちゃうよ」

「朝から、何馬鹿言ってるの!・・・あら、大変!京子ったらお金忘れてるじ

ゃない!!」























どうしよう・・・。

ノート買われへん・・・。

「ママ・・・」

どおしよ、先生に怒られる!

明日お金払うから、今日は貸して下さい!!

ノートに伸びる手を遮った手があった。


振り向くと、そこには男の子。










あれ?

どこかで逢ったこと・・・?









「―――っこ・・・、こんな事したらアカンやろ?犯罪なんやぞ!?」

怒られてしまったことに、素直に謝る。

「!?ご、ごめんなさ・・・!お金・・・忘れて・・・ママァ――」

しかし、びっくりしたのか、目に涙がうかんでいた。

その時。

ビリッ、と音がした。

驚いて見上げれば、少年がノートを半分に破いている。

「ん。俺のノート半分やる。忘れたら友達に貰えばええねん」

「あ・・・ありがとぉ!うれしい!!」

「俺、黒崎 守。5年生や!ほら、早う行こ!遅刻してまう」

そう言って、手を差し出した。




わ・・・ぁ・・・

守くんって王子様みたいや!

「ウチは、京子!!」

「―――・・・キョー子、・・・京子、なぁ―」

そして、守は言った。

「俺らってどっかで逢ってへんか?」

じゃあ、京子はお姫様になるねん。


























昔昔、町の広場に幸福の王子の像がありました。

『敦賀さん、王子様のツバメはどうなったんですか?』

『・・・忘れた』

ツバメは、南へ帰ったりしないんだ。


人々に自らの宝石を与え続けた王女をツバメは愛した。
ボロボロになった王女を俺は愛した。

だから、冬の朝王女の足元で息絶えても、俺は幸せなんだ。





















  ある日、
  神様は天使にお命じになられました

  「あの地で一番美しいものを持っておいで」

  天使は町のゴミ捨て場に
  うち捨てられた
  王子の割れた心臓と
  ツバメの亡骸を持って帰りました

  これが地上で
  いちばん美しいものです

  輝くものです

























「おい、トコロテン食いに行くんだろう?」

「うん!」




























幸せです。

だって、私は大好きな人と出会ったのだから。

毎日毎日楽しくて。

毎日毎日嬉しくて。

大切な大切な。














ここは、美しい世界。
















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