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「はー・・・、今月もえらい赤字やわ」

店主は小さくため息をついた。

そのとき、玄関の鐘がなった。

「すんませんなぁ。今営業停止中どすねん」

運命を狂わせる音色が。

「お願いがあって来ましたんや」

やってきたのは、一人の男だった。

「敦賀はん・・・」

バサバサッ、という音と共に机に撒き散らされたのは大量の札束。

「ここに、最上キョー子って女の子おりますやろ」







狂わせたのは、時という権力。















花簪を君に::八














「え?不破さんと?」

「そや、外でごはんよばれるだけや。河床連れてってくれはるって、良かった

なぁ」

「でも・・・、お店の外でお客さんと会うのは・・・」

渋るキョー子に、店主は怒鳴った。

「キョー子!あんたそんな事よう言えるな!うちにどれだけ借金しててたたく

台詞や!」

「まあまあ、おかみさん」

不破が仲裁に入る。

「そんなにせめたら可哀相だろ」

そして、キョー子のほうに向く。

「無理にとは言わない。けど、その日俺の誕生日なんだ。早くに両親亡くしち

まって一人なんだよ。いつもは別に気にしないけど、誕生日はさすがにキツイ

んだ、一人って」

キョー子は、恥ずかしくなった。

「ごめんなさい、不破さん。私。変に勘ぐったりして。わ・・・」

本当にこの台詞を言っていいものか、一瞬迷った。

「わ、私でよかったら・・・」

下を向いて言った言葉だったから、不破の口が醜く歪む姿は、キョー子には見

えなかった。

顔を上げたときには、人のいい笑顔だったのだから。

「ありがとう!うれしいよ。今年は寂しくないな。一緒に、活動も見ようぜ!」

不破さん、寂しいんだもん。

ごはんだけだし、大丈夫。

大丈夫よね・・・?























「瑠璃子と一緒になれ」

急ぎの用がある、そう染匠に呼ばれた。

以前の布の評判がよく、追加の注文かと赴けば、そこには何故か瑠璃子がいた。

そして、その父から娘を薦められたのだ。

以前に、安らげはしないといったその女を。

「お前の身分では、敦賀に婿に入るんは過ぎたことや」

じゃあ、いいだろう!?

「でも、おまえはわしが見込んだ男や。才覚も商才もうちにふさわしい」

「お言葉ですが、俺は―――・・・」

好きな女がいますから、そう告げる前に染匠が遮った。

「そういや、おまえの父親、だいぶ心臓がアカンのやろ?神戸のええ医者知っ

てんのや。何でも心臓の名医らしいわ。わしの口利きでいれたるわ。それに・

・・」

数秒の間をおく。まるで、無言の脅しのように。

「・・・おまえの実家への援助も今まで通り続けたる」

ふざけている、こんなのただの脅迫だ、そう思うが声に出せない。

「分かったな、娘と一緒になれ」

「待ってください!俺には――・・・!」

それでも言わなければならなかった。

たとえ、全てを失っても幸せにしたい女がいると。

しかし、それも叶わなかった。

瑠璃子の口から思いもよらない言葉を聞いたからだ。

「蓮。アホやな。あの女給さんアンタ以外のお客さんとも仲良うしてるえ。い

っつも川原町の河床で男はんと会うてはるわ」

















時というものは、残酷だ。

タイミングが全てなのだ。

何故、自分の愛した女のことを少しでも疑ったのか。

あの少女は、盲目なまでに自分を愛してくれたというのに。



















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