出会いセンター       


君と居られるこの瞬間が、俺は好きだ。

君が誰より俺の隣にいて、何よりも近く触れ合っているようなそんな錯覚。

抱き合って、君の中に入り込んで、君と俺の全てを巻き込んでいく感覚も、

君がただ俺の腕に居ることさえ、全てが俺の幸福に繋がるんだ。







唇の檻







蕩けそうな微笑みを腕の中で荒い息をつく少女に向ける。

華奢な胸が上下するのに蓮は満足そうに息をつくとその頬に手を滑らせた。

「はぁ…、敦賀さん…。」

キョーコは優しい瞳を向ける恋人に小さく笑うと頬を染める。

落ち着かせるように頬を撫でる蓮の手が心地いいのだろう、少しだけ甘えるように蓮の方に体を寄せる。

そんなキョーコに蓮は暖かいものが体中を満たすのを感じていた。



…こんな風に感じたことなんてなかったな……



くすり、と蓮は笑う。

今まで思いを寄せた相手がいないわけではなかった。

しかし、彼女を前にしてはそんな思いなど本気ではなかったのだろうという気さえしてくる。

傍にいるだけで感じる安心感、充足感。

「何笑ってるんですか!。」

むっとしたようなキョーコの顔に蓮は優しく微笑むと額に口付ける。

蓮の口付けにキョーコがくすぐったそうに身をすくめると、蓮は追いかけるように今度は頬に軽く口付ける。

「ちょっ…敦賀さんっ!。」
焦ったようにキョーコが敦賀の口付けを止めようとするがやんわりと抵抗さえ塞がれ優しい口付けを繰り返される。

最初は額、そして頬、瞼。

蓮が愛しいと思うところ全てに口付けを落としていく。

口付けを落とすたびに愛しいという気持ちが広がって、蓮はまた一つと口付けを落とす。

その口付けが下へと降りようとした時、流石にキョーコは慌てて蓮のやんわりとした拘束を解いて口付けを止める。

咎めるような視線に蓮は苦笑する。

「…敦賀さん、そろそろ帰らないと。」

遅くなるとは言っているものの、これ以上遅くなればキョーコがお世話になっている『だるまや』の夫婦が心配するだろう。



いつの間にこんなにも君を渇望するようになったんだろうね。



キョーコにわからないように苦笑すると蓮は名残惜しげにキョーコから体を離す。

「シャワーを浴びておいで、その間に飲み物でも淹れておくから。」

その言葉にキョーコは安心したようにほっと息をつくとその場を離れた。

蓮はキョーコの背中を見送って軽く身支度を整えると普段あまり使われていないキッチンに向かうのだった。





お湯を沸かして、自分には珈琲を、彼女には少しだけ甘めのカフェオレを淹れる。

そこに頃合を見計らったようにキョーコがやってきた。

「はい、どうぞ。」

微笑んでキョーコの分のカップを渡せばキョーコは頬を染めてそれを受け取る。

「ありがとうございます…。」

何度経験しても初々しいままのキョーコに蓮は甘く微笑んだ。

そしてまだ湿っているキョーコの髪に気づくとそのままキョーコの手を引いて暖かいフローリングに座らせる。

「ちゃんと拭かないと風邪をひくよ?。」

カップを持ったまま座ったキョーコの後ろに座るとキョーコの髪に緩く絡まっていたタオルを取って優しく雫を拭う。

「あ、敦賀さん!大丈夫です!ちゃんと自分でやりますから。」

焦りながらキョーコはカップをガラステーブルの上に置くと自分を包み込むように座っている敦賀の手を外そうとする。

「いいから、そんなこと言ってる間に風邪ひいたら大変だから、ね?。」

有無を言わせぬ微笑でキョーコの抵抗を封じると器用な指先が優しくタオル越しにキョーコの頭に触れる。

「う〜…。」

キョーコは頬から耳まで真っ赤に染めて楽しげな蓮の姿を困ったように見上げた。

恨みがましい目で見つめるキョーコに蓮はくすりと笑って「はいはい。」と軽く宥めるとキョーコの顔を前に向けてまたタオルで雫を取り始める。

ちらりと盗み見た蓮の心なしか楽しそうな様子にキョーコは軽く息をつくと置いたままだったカップを手に取り口をつける。

「おいしい…。」

甘いカフェオレはキョーコの喉を優しく潤してくれる。

呟いたキョーコに蓮は髪を拭く手はそのままにふわりと笑って見せた。

二人きりの穏やかな時間がゆっくりと流れていく。

人前では全く甘えてくれない恋人が二人きりの時にはこんなにも自分に身を任せてくれるのが蓮はこれ以上ないくらい嬉しい。

事務所や仕事場で会った時にする会話も、キョーコとするものならどんなものでも楽しいが、

このゆったりとした時間にはどんなものも叶わないだろう。

それほどこの優しい時間は蓮の中を甘くとろりとしたもので満たしてくれる。

「帰したくないな…。」

ぽつりと甘い声でキョーコの耳元で囁く。

もう少しでこの時間も終わるのかと思うと、名残惜しくて拭き終わったキョーコの髪に一つ口付けを落とした。

「つ、…敦賀さん?!。」

焦ったキョーコの声に蓮はくすりと笑う。

彼女を困らせたいわけじゃないのに、本心はこんな彼女さえ愛しいと思う自分がいる。

「やっぱり泊まっていかないかい?。」

手に持ったタオルをフローリングに置いてそのままキョーコの体を後ろから抱きしめる。

背の高い蓮の中にすっぽりと柔らかなキョーコの体はおさまってしまう程に華奢だ。

パワフルで元気な姿ばかりを見ている蓮にとって、思いも寄らぬほど自分より小さい体に初めて抱きしめた時は驚いたものだったが、

今ではこんなにも心地いい。

「それは…。」

心底困ったようにキョーコは自分の肩に顔を埋める男を見て抱きしめられた腕に自分の手を重ねる。

自分より柔らかな手が重ねられるのに蓮は顔を肩に埋めたまま苦笑する。

「わかってるよ。」

心底困ったようにしているキョーコを安心させるように蓮は顔を上げるとそのままキョーコの頬に自分の頬を寄せる。

その温度差が、何故か優しい気がした。

腕の中の存在を放さないとでもいうように、また少しだけ力を込めた。

「…でもとりあえずこれを飲むまでは、君は俺の腕の中だ。」

そう言って彼女のこめかみに口づければキョーコは頬を染めた。

「敦賀さん…。」

他の誰が言っても笑い話にしかならない台詞も敦賀蓮という男が言えば、その言葉は最大級の甘さを持って言われた相手の耳に入る。

何でこんな気障なんだろう、とキョーコは微かに溜息をつく。

「ん?キョーコちゃん?。」

腕から伝わったキョーコの息遣いに蓮はキョーコの顔を伺い見る。

「あ、なんでもないですから。」

じっと自分を見つめる蓮にキョーコは慌ててカップを口につける。

そんなキョーコに蓮は真意を探るようにキョーコを見るがキョーコはというとそ知らぬふりでカップに入ったカフェオレをこくりと飲む。

残り少なくなったカフェオレに、蓮はキョーコの手からカップを取り上げて自分の横に置く。

「あ、敦賀さん!!。」

何するんですか、と恨みがましい目で横を向くと蓮の整った顔を正面から見ることになる。

「キョーコちゃんが隠し事するからだよ?。」

ぐっと自分の方に引き寄せて、キョーコの背中とぴったりと密着する。

「俺には言えないこと?。」

ぐっと耳元で囁かれて、キョーコは耳まで真っ赤に染める。

「そ、そういうわけじゃ…。」

どうしていいかわからずに顔を背けようとするが、蓮はそれを許さずキョーコの頬に手をあてぐっと自分の方に固定した。

「じゃあどうして溜息なんてつくのかな?。」

じっと視線を囚われて聞かれて、キョーコは瞳を伏せる。

「キョーコちゃん?。」

再度問いかけられて、キョーコは恥ずかしそうに蓮に視線を向けた。

「…あの、…幸せだなって…。」

言いにくそうに恥ずかしそうに言われて、蓮はふわりと微笑む。

神々しいくらいの甘い微笑みにキョーコは固定されていた手を外して抱きしめられたまま顔を伏せた。

「そんな顔をしないで欲しいな、…本当に帰したくなくなるよ。」

ふふっと嬉しそうに笑って蓮は真っ赤になったキョーコの後ろ頭に口付けを落とす。

「もうそんな恥ずかしいこと言わないで下さい!!。」

恥ずかしさもピークを超えたのか、キョーコは蓮の甘い拘束を振りほどくと少しだけ距離を置いて座る。

真っ赤になってしまったキョーコの様子に蓮はくすくすと楽しそうに笑った。

一つ一つに反応してくれるキョーコが蓮の目には何より愛しく映る。

だからこそ抱きしめていたくて、だからこそついからかってしまうのだけれど、

それもキョーコにとっては子ども扱いされているとしか思えなくて悔しくなるのだ。

「もう!子ども扱いしないでください!!。」

まだくすくすと笑い続ける蓮にキョーコはむっとしてその場で立ち上がる。

「もう帰ります!!。」

言い切って荷物を取ろうと手を伸ばすとキョーコより大きな蓮の手がその手を受け止めて自分の方へと引き寄せる。

軽いキョーコの体はしっかりと蓮の腕の中に抱き込まれてしまう。

「駄目だよ、帰るのはこれを飲んでからだろう?。」

今度は向き合う形で抱きしめられ、キョーコは上目遣いで蓮を睨み上げる。

「何を言ってるんですか!取り上げたのは敦賀さんでしょ?!。」

語気の荒いキョーコに蓮はくすりとまた一つ微笑む。

「だってキョーコちゃん、これが無くなったら帰るんだろう?なら…。」

そこで言葉を切ってキョーコのカップをその手に握らせる。

「帰したくない俺としては、少しでも時間稼ぎをしたい…。」

そう言ってキョーコの唇に啄ばむように口付けを落とす。

口付けては離れ、もう一度というように柔らかな口付けは羽のようにふわりふわりと降りてくる。

「つ、…敦賀さん…。」

降りてくる合間に口を開けば、今度は唇を食むように蓮はキョーコの唇に触れる。

キョーコはと言えば向かい合ったままの姿勢で、カフェオレの入ったカップを両手で持っていたので

動くに動けずただ蓮の口付けを困ったように受けるだけ。

「嫌?。」

低く聞かれてキョーコは小さく首を振る。

キョーコにしてもこんな風に蓮に抱きしめてもらうことは嬉しかったし、口付けも恥ずかしいが嫌だなんて思ったことなどない。

そんなキョーコの様子に蓮は満足そうに微笑むとゆっくりと瞼を閉じる。

キョーコもつられるように瞼を閉じるとまた優しく口付けられた。

チュッと短く音を立てて蓮の唇が離れるとキョーコはゆっくりと瞳を開ける。

すると、また蓮の腕に抱き寄せられた。

「…本当に帰したくなくなってしまうよ。」

参った、というように蓮は大きく息を吐き出しキョーコを抱き寄せる。

そんな蓮から慌ててカップを離すとキョーコはこくりと温くなってしまったカップの中身を飲み干す。

「駄目です!帰らないと大将も女将さんも心配するんですから!。」

その言葉に蓮は仕方ないというようにキョーコから腕を外す。

「わかったよ。」

苦笑気味に笑って、蓮は立ち上がるとキョーコの腕を取る。

飲み干されたカップの中身を見て軽く息をつくとキョーコはしてやったりとばかりに

自分のカップと蓮飲みかけのコーヒーを手にとってキッチンに向かった。

その背中を見送ってから蓮は私室に戻って軽く上着を羽織るとリビングに戻る。

そこには既に変える仕度を整えたキョーコが立っていた。

「それじゃあ送っていくよ。」

チャリっと愛車のキィを片手に持って蓮はキョーコを促した。

「いいですよ!まだ早い時間ですし敦賀さん明日も早いんですから早く寝てください!。」

基本的に休みなど皆無に等しい日本一いい男は、自分の体を気遣わないことにかけても日本一なのではないかとキョーコは思っている。

キョーコが帰れば一人でゆっくりと過ごせるというのにそんな貴重な時間を使ってもらうなんて、とキョーコは慌てて蓮の歩みを止めようとした。

「駄目に決まってるだろう?。」

ふぅっと蓮は玄関でキョーコに向き直る。

「早いと言っても女性の一人歩きは危ないし。」

そう言って蓮は長身を屈めてキョーコの耳元に唇を寄せた。

「…俺がキョーコちゃんと少しでも長く居たいから。」

その言葉にキョーコは短く唸ることしか出来ない。

「キョーコちゃんは…俺と少しでも一緒に居たいって思ってくれないのかい?。」

素直じゃないキョーコには意地悪な質問。

『居たい』とそう言ってくれたなら、優しい口付けをして抱きしめて部屋に逆戻り。

『居たくない』とそう言ったら、そのまま抱きしめて閉じ込めてしまおう。

どちらにしてもキョーコにとっては同じ結末。

そんな思惑を知ったらキョーコは臍を曲げて当分口をきいてくれないだろう。

蓮はじっと微笑んだままキョーコの答えを待つ。

キョーコは赤い顔で距離の近い蓮の顔を見ると、意を決したように少しだけ背伸びをする。

ほんの少し、唇に感じた柔らかい感触に蓮は目を見張った。



あぁ、参った。こんな答えは予想してなかったよ…



いい意味でキョーコは蓮にいつも驚きをくれる。

少しだけ黒い考えを持っていても、こうして彼女行動はふとした瞬間に蓮の予想を超えるのだ。

「…敦賀さんの意地悪。」

ぼそりと呟かれた小さな声に蓮は我知らず楽しそうに笑う。





だから、俺は君をこの腕に閉じ込めたくなるんだ。



















<管理人より、愛のコトバ>
きゃあぁぁぁぁぁっ!!素適っ!!素適すぎます、かるのさんっ!!!
●○3月3日に開設された素敵なサイト様へ○●と書いてあったのですが、3/3は姫椿のOPEN日!
スキビのお話でしたので、もしや・・・?と思い、まず強奪(未確認)。ああ、違う方だったらどうしよう
(じゃあ、やらなきゃいいのに・・・)!後で確認取ります。→大丈夫でした。ありがとうございま〜す、
かるのさんっっっ!!!ようやく、私のサイトにも憩いの場所ができましたっ!!キョー子ちゃんに関
して余裕のない敦賀さんが大好きです。

本当に、ありがとうございました!!




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